はじめに
ゆとり世代の中野です。
さっそくチャレンジについて書いていきます。
AIにコードを書かせるようになって一年以上経ちました。 いくつものタスクを並列で実行できるようになり自動化が進みました。 生産性は、確かにあがりました。 ただ、その速さの中で、ふと手が止まる瞬間が増えました。 今日は、その小さな違和感について書いていきます。
チャレンジする背景
- 違和感を言語化して自分の考えや理解を整理する
チャレンジ内容
- AIで高速化した世界で
- 現代のBuildTrapへの導線
- アウトカムに繋がる学習を高速化する
- インサイトとは
- 無限のインサイトをどう絞るか
- どこからどこに光を当てるのか
- そのゴールは何のためですか
- 手にすべき本当の資産とは
- 思い込みに消費期限をつけよう
AIで高速化した世界で
以前は数週間かかっていたものが、今ではランチに行ってる間に終わります。 しかも、AIを契約さえしていれば、この速度は誰でも手に入る。 作れることが価値だった時代から、意思決定に価値の重心がスライドしたと思っています。 「早く作れること」より「速く学べること」が競争優位に確実に変わったと感じます。
現代のBuildTrapへの導線
これまでは作るのに時間がかかったぶん「あれ、これ意味あるんだっけ?」と立ち止まって考える時間がありました。しかし、最近では「早く作れること」でその時間が無くなり「価値」について考える時間が減りました。 つまり「作ること」自体が目的になっており、価値を見失っている状態に陥りやすくなってるように感じます。 この状態には、名前があります。 ビルドトラップ。Melissa Perriが2018年に名付けた、古くからある病です。 スプリントがチケット消化の場になる、という課題も昔から言われてきました。 その古い病が、AIで今までとは比較にならない速度で広がっています。 考える余白を失った組織を、より早く、より深く蝕むようになった。 現代のBuildTrapは、日常の業務の中で静かに進行します。 これまで考えることができた時間を失い、目の前のタスクにフォーカスしてしまう。 そうして、気づかないうちに陥ってしまうのだと考えています。 だからこそ、我々は作った量(いくつ機能を出したか)じゃなくて、それで何が変わったか(ユーザーがどんな状態になれたか)で測るべきです。 何が変わったか(アウトカム)を計測して初めて、価値について考える時間を取り戻せます。
アウトカムに繋がる学習を高速化する
個人的にリリースせず、仮説の検証もしないで作り込むのは最悪なパターンだと思っています。 誰も欲しがらないと後になって気づくのは致命的です。 当たり前ですが100回の議論よりも1回のリリースのほうが前に進みます。 リリースして市場と対話できるようになって初めてスタートラインです。 だから「作って晒して学べ」は、今でも正しいと思っています。 ただし、闇雲にリリースを繰り返せばいいわけではありません。 何を確かめたいのかが曖昧なままリリースを繰り返しても、それは学習ではなく、ただの空回りです。 「100回リリースしたら当たるかも」は餌が出るまでボタンを連打する猿と同じじゃないですか。 これを回避するには、仮説を立てて、リリースと学習を高速で繰り返しながら、探索を収束させていく必要があります。 では、その仮説はどこから来るのか。 その源泉が、インサイトです。 次は、その話をします。
インサイトとは
インサイトという言葉は、人によって意味が揺れます。 マーケティングでは、消費者自身も気づいていない無意識の欲求を指すことが多いです。 一方で、プロダクト開発では、行動やデータといったfactから導いた洞察として使われることもあります。
なので、この記事では以下のように定義します。 インサイトとは、ユーザー自身もまだ明確には気づいていない、願望・不安・制約・判断基準の正体です。
本人はそれをうまく言語化できないかもしれません。 ただ、ふとした一言、繰り返す行動、何度も起きる迷い、本来とは違う使い方の中に、その痕跡は出ます。 その観測できた痕跡がfactです。 factを集め、並べ、共通するパターンを見る。 そして「この行動の奥には、こういう願望や制約があるのではないか」と仮説を立てる。 その仮説が、この記事でいうインサイトです。
だから、インサイトは事実そのものではありません。 どこまでいっても仮説です。 本当にユーザーの中から出てきたものなのか。 それとも、自分たちがそう思いたいだけなのか。 それを確かめるために、量だけでなく種類の違うfactを集めます。
発言、行動、途中でやめたこと、続けている人と離脱した人の違い。 違う角度から見ても同じ痕跡が見えるか。 一人だけではなく、複数のユーザーに反復して現れるか。
そうやって、仮説の確からしさを少しずつ上げていく。 インサイトを見つけるというのは、ひらめきではありません。 ユーザーを理解してfactの奥にある『なぜ』を探すことです。
無限のインサイトをどう絞るか
インサイトは、factの奥にある「なぜ」を探すことだと書きました。 このインサイトは探せばたぶん無限に出てくるんですよね。 あれもこれもそうかも。もしかしてこれもこれもそうだ。 こんな感じで、でも我々の時間は有限で無限に対応はできない。 だからこそ制約を入れる必要があると思っています。 その制約が、プロダクトビジョンとプロダクト戦略です。 インサイトを片っ端から追いかけても、一貫性はありません。 どこに向かっているのかも、わからなくなってしまいます。 何を目指しているのかがわかれば、関連するインサイトがわかります。 そのインサイトを中心にフォーカスすることができます。 この何を捨てるのかを決めるのが戦略です。
では、戦略さえ立てれば、何に賭けてもいいのでしょうか。 そうではないですよね。 その戦略が向かっていい範囲を決めるのが、プロダクトビジョンです。 ビジョンが戦略のスコープを制限し、戦略が戦術を制限する。 この制約こそが一貫性を生みます。 そして、一貫性があるから、立てた仮説を継続的に検証できる。 でたとこ勝負で、毎週ちがうことを確かめていたら、いつまでも何もわからないままです。 さて、これでビジョンと戦略ができました。 では、賭けたインサイトの、どこに光を当てるのか。 次は、その話をします。
どこからどこに光を当てるのか
賭けるインサイトが決まったとします。 面白いことに決まったからと言って作るものが1つとは限りません。 例えば、こんなインサイトがあるとします。 「ユーザーは、欲しいものがあったはずなのに、それが何だったか思い出せないでいる」。 さて、我々はこれに、どう応えればいいのでしょうか。
過去に見たものを、もう一度見せる。 似た人が選んでいるものを、教える。 似たものを、探せるようにする。 どれも、同じ「思い出せない」に応えています。 でも、出来上がるプロダクトは、まるで違います。 閲覧履歴を並べるのと、他の人のおすすめを出すのと、思い出す支援をするのとでは、まったく別の体験ですよね。
同じインサイトなのに、応え方によってこんなにも変わる。 この「どう応えるか」を選ぶことが「光を当てる」という事だと思っています。 インサイトという同じ対象に、どこから、どんな光を当てるか。 当てる場所と角度で、浮かび上がるものが変わる。 そして「ここにこの光を当てたら、こう届くはずだ」。 これが、我々の仮説です。
ここで、思い出してほしいことがあります。 AIは、光を当てた先にあるものなら、速く作ってくれます。 履歴を並べる画面も、おすすめのロジックも、検索のUIも、指示すればすぐ作ってくれます。 でも、どこにどんな光を当てるかは、AIは決めてくれません。 無限のインサイトのどこを狙って、そこにどう応えるか。 それを決めるのは、我々です。 冒頭に、価値の重心が、作れることから判断できることへ移った、と書きました。 その「判断」の正体は、これだと思っています。 どこから、どこに、光を当てるか。 それを決めることです。
そのゴールは何のためですか
さて、どこに光を当てるかが決まりました。 ここで、スクラムに戻ってきます。
そもそもスクラムは、速く作るための仕組みではありません。 透明性を高めて、検査して、適応する。 確かめながら進むための、経験主義のフレームです。 ただ、誤解しないでほしいのは、確かめること自体が目的ではない、ということです。 我々は、価値を届けるために確かめている。 スプリントの一周は、届けながら、届いたかを確かめる一周です。 だから、スプリントで仮説を確かめるというのは、何か新しいものを持ち込む話ではありません。 スクラムを、本来の目的で使うだけです。
その前提で、スプリントゴールを見直してみます。 我々はふだん、こう立てますよね。 「このスプリントで、思い出す支援を届ける」。 届けること。ゴールの目的は、そこにあります。 ではここで一つ質問です。 リリースできたら、届いたと言えるのでしょうか。 このゴールの裏には「思い出せずに困っている人は、過去の履歴を見せれば戻ってくるはずだ」という仮説が隠れています。 届いた、というのは、この仮説が当たっていたということです。 出せた、は、まだ途中です。 だから、ゴールを立てるとき、裏の仮説まで言葉にしておく。 そうすると、スプリントで検査できるものが変わります。 「リリースしたか」ではなく「届いたか」を、検査できるようになるんです。
ここまで来ると、問いに答えられます。 そのゴールは何のためですか。 届けるためです。そして、届いたと分かるためです。 ゴールが「何を届けるか」を宣言する。 裏の仮説が「届いたと、どう分かるか」を宣言する。 この二つが揃って、はじめて意味のあるスプリントが閉じます。 出せて終わり、ではなく、届いたかを検査して、次に適応する。 スプリントレビューは、本来その場のはずです。
機能を出せたかどうかは、ゴールの達成ではありません。 そのゴールは、何のためですか。 この問いに、仮説で答えられる状態にしておく。 スプリントを始める前に、我々がやるべき準備は、これだと思っています。
手にすべき本当の資産とは
さて、スプリントを回して、検査しました。 届いたのか、届かなかったのか。 仮説は、当たることもあれば、外れることもあります。 むしろ、外れることのほうが多いはずです。 でも、ここで言いたいのは「外れてもいい」という慰めではありません。 外れ方に、意味がある、という話です。
ここで、光の比喩に戻ります。 外れたとき、原因は大きく二つに分かれます。
一つは、光の当て方を間違えた場合。 インサイトは、ちゃんとそこにあった。 でも、当てる角度や強さを間違えた。 履歴を見せれば戻ってくるはずだったのに、見せ方が悪かっただけ。 これなら、同じ場所を、別の角度から照らし直せばいい。 立て直しはすぐにできそうですね。
もう一つは、照らした場所に、そもそも何もなかった場合。 「思い出せずに困っている人がいる」という見立て自体が、ずれていた。 照らしてみたら、そこには何もいなかった。 あるあるだとおもうのですが、こういうの案外辛いですよね。 思い出してください。 我々は、賭けるインサイトを選び、そこに光を当て、仮説を立ててきました。 光の当て方も、仮説も、ぜんぶこのインサイトの上に積んであります。 その土台が、崩れたんです。 上に積んだものは、全部やり直しです。
でも、この痛みと引き換えに、大きなものが手に入っています。 土台が崩れている、と分かったことです。 知らないまま、上に積み続けるより、ずっといい。 だから、我々がスプリントで真っ先に確かめたいのは、いちばん下です。 光の当て方より先に、照らす場所は合っているのか。 一番大きく賭けていて、一番あやしい思い込み。 それは、たいてい、いちばん下にあります。
ちなみに、インサイトが外れても、戦略まで死んだわけではありません。 戦略で絞り込んだ範囲の中の、一つの見立てが空だっただけです。 同じ範囲の中で、別のインサイトを照らせばいい。 ただ、照らしても照らしても空が続くなら、疑う対象が変わります。 絞り込んだ範囲そのもの、つまり戦略です。 戦略の当否は、一回のスプリントでは分かりません。 外したインサイトの蓄積だけが、それを教えてくれます。
ここまで来ると、結果の意味が変わります。 ただ「外れた」で終われば、手元には何も残りません。 でも「どこを外したか」まで分かれば、次に照らす場所を教えてくれます。 外れの一つは、次の一手の足場になる。 外れの蓄積は、戦略を続けるか畳むかの、判断材料になる。 作ったものは、捨てることになるかもしれません。 それでも、この足場は残ります。 これが、スプリントを回して手に入る、本当の資産だと思っています。
思い込みに消費期限をつけよう
ここまで書いてきて、あらためて思うことがあります。 戦略が間違っていると分かれば、変えればいい。 作っているものが違うと分かれば、ピボットすればいい。 言うのは簡単ですよね。やるのは難しい。わかります。 今やろうとしていることの根拠は?確度は?見込みは? 我々は常にそれを確かめて、決めたことを変える勇気を試されています。
実は、この勇気という言葉、後付けの精神論ではありません。 スクラムには、五つの価値基準があります。 確約、集中、公開、尊敬、そして勇気。 最初から、そこに書いてあるんです。 スクラムは、勇気を要求するフレームです。 勇気が試されている。それは本当です。 でも、毎回、剥き出しの勇気で戦う必要はないと思っています。
思い込みを畳めない理由は、たいてい勇気の不足ではありません。 期限の不在です。 「いつか刺さるはず」は、締め切りがなければ何年でも延命できます。 しかも、時間をかけるほど、畳む判断は重くなる。 ここまで作ったのに、と。
スクラムにはスプリントというタイムボックスがあります。 インサイトを照らして、何も出なければ、畳む。 始める前に、そう決めておくと畳む判断は、その場の英断ではなくなります。 消費期限が切れたものを捨てるのに、勇気は要りませんよね。
スプリントは、いつまでに作るかの締め切りとして語られがちです。 でも、本当は、いつまでに思い込みを手放すかの締め切りでもある。 思い込みに、消費期限をつけてくれるもの。 私は、スプリントをそう捉え直しました。
結論
- 価値の重心は、作れることから「どこに光を当てるか」を決めることへ移った
- ゴールの裏に仮説を置けば、「出せたか」ではなく「届いたか」を検査できる
- 外れても「どこを外したか」が分かれば、次に照らす場所を教えてくれる
- スプリントは、思い込みに消費期限をつけてくれる
さいごに
この記事に書いたことに目新しいものはないと思っています。 経験主義で恐れずに仮説を立てアウトカムで測る。 全て先人たちが残してくれた考え方です。 AIが台頭した現代においてもスクラムの本質は何も変わっていません。 冒頭に書いた、ふと手が止まる瞬間は、これから何度も来ると思います。 その度にその時感じた違和感と向き合いながら言語化し価値を作り届けることに向き合い続けたいと思います。
yutanakano
WEBエンジニア
大阪生まれのゆとり世代です
趣味はバイクでツーリングに行くこと
愛車は Ninja ZX-25R SE KRT EDITION
Expoでプロダクトを作っています